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ビリー・ヴォーンと音楽興業とCD販売と…

 ビリー・ヴォーンの来日公演に行ってきました。ジャン・ジャック・ジュスタフレを招聘したテイト・コーポレーションの企画ということで、伊藤音楽事務所でやっていた時代とはステージ構成を大きく変えてあるとの話を聞き会場に向かったのですが、幕が開いてびっくり。生音主体の薄っぺらいサウンドではない、きちんとミキシングされバランスが調整された音であるのはもちろんのこと、視覚的にもサックスを左にトランペットとトロンボーンを右に配置することで、ステージの左右への広がりと客席からステージが近くに感じられるような工夫がなされており、さらにはステージ後方のスクリーンにレコード・ジャケットやハワイの風景を曲名とともに投影させ、視覚聴覚両面での素晴らしい演出が施されていました。
 演奏の方は、ビリー・ヴォーンの息子リチャードによる日本語での曲説明でお客さまを和ませつつ、3人の若手女性ヴォーカルを織り交ぜたメリハリのある選曲で進行。第二部になるとハワイアン・リゾート衣装と映像から一変し、都会(ニューヨーク?)の古いジャズ・ハウスをイメージしたような映像と、それにふさわしい白い衣装(女性の衣装はちょっとレトロな衣装)で演奏が繰り広げられていきます。随所に手拍子を求める曲を織り交ぜ、観客とともに楽しい雰囲気を創り上げていき、ビッグ・バンドの魅力そして生演奏の躍動感を堪能させてくれた2時間でした。
 女性ヴォーカルによる歌が少し多くて、もうすこしビリー・ヴォーンならではのヒット曲、特に「真珠貝の歌」はやって欲しかったな、とも思ったのですが、最近のヴォーカル曲が、打ち込みシンセの薄っぺらな伴奏かフル・オーケストラの迫力に任せた伴奏かの両極端に走る傾向が多い中、ブラス主体による音圧も高くノリノリな生演奏をバックに歌が披露されることの魅力を改めて気づかせてくれました。 
 そして、何より驚いたのが会場で発売しているCD/DVDの売れ行き。購入者はリチャードや3人の女性ヴォーカルが公演後にサインをしてくれるという触れ込みがもあり、100人近くは並んでいたと思います。昔、ルフェーヴルの2枚組ベスト盤LPが「10万枚限定プレス」と称して売られていたこともありましたが、今やその100分の1でも売れたらいい方というくらいCDが売れない時代と言われている一方で、実は売り方によってはこれだけ売れるのですね。市場ニーズはあったわけです。お客さまが次々とCDやDVDを手にしていく現場を見て、まだ何かできることがあるのではないか、そんな思いを感じました。 

 今回、日本ビクター(当時)でビリー・ヴォーンを担当され、自身が設立したドリーム21というレコード会社でもビリー・ヴォーンのCDを扱っている所さんといっしょにコンサートを楽しみました。久々のステージに感激し、ビリーの息子のリチャードと何年ぶりかの再開も果たし、満面の笑みを浮かべていた所さん。「ビリー・ヴォーンの曲のタイトルはほとんど僕がつけたんだよ。『峠の幌馬車』ってね、原題は"Wheels"って言うんだけど、直訳の『車輪』じゃおもしろくないから、"幌馬車"にして、そこに「峠の我が家」って曲あるよね。あれにヒントをもらって『峠の幌馬車』にしたんだ。」そんな話をしくれました。 
 いい音楽、いいステージは、人を幸せにします。

[2013.09.23 up date]