1991年のポール・モーリアのコンサートのプログラムを見て驚きました。「これって、ルフェーヴルがやっているあの曲?ポール・モーリアはレコーディングしてなかったと思うけど…。」そして実際に演奏されたのはまさしくその曲「ウエスタン・フィンガーズ」。「ポール・モーリアがコンサートで取り上げるくらいのフランスでもヒットした曲なんだろうか?」コンサート後に当時のフランスのヒット・パレードの本をめくってみましたが見つかりません。まあ、チャート100位内に入るような曲ではなさそうなので、当時はそれ以上調べようがありません。
そしてインターネット時代になり、世界中の方がご自身が知っている情報を共有してくださったおかげでついに見つけることができたのがこのEP盤(モノーラル)です。演奏者はJefferson Folk Groupというバンドで、Rivieraというフランス・ドメスティックなレーベルから出ていることから、フランス人のアーティストで、カントリー風の曲を演奏するため米国風の名前にした可能性が高いと思っています。
このアルバムには"Western Fingers"のほかに、"Farewell Angelina"(邦題:さよなら、アンジェリーナ)というジョーン・バエズが1965年に発表した作品や、ピーター・ポール&マリーの"Stewball(ステューボール)"といった曲が収録されています。いずれも歌は入ってません。"Western Fingers"が彼らのオリジナル曲かどうかは不明ですが、海外の曲のカバーならだいたい検索すると引っかかってくるものですし、ジャケットに記載されている作者のSonny Breedで検索してみてもこの演奏しか引っかかってこないのでオリジナル曲である可能性は高いでしょう。
実は、1991年のライヴが収録されたポール・モーリアのCDには、この曲の作者として「ロマンチカ」とか「アリデヴェルチ・ローマ」といった曲のフランス語詩を作ったRoger Berthierという名前が単独でクレジットされています。もしかしたらJefferson Folk Groupという名前と同様に、ソニー・ブリードという名前もロジェ・ベルティエの米国風ペンネームなのかもしれません。調べましたがわかりませんでした。
ところで、フランスの音楽著作権管理団体SACEM(サセム)のサイトで「ウエスタン・フィンガーズ」を検索すると、ポール・モーリアが編曲した作品しか出てきません。ルフェーヴルがアレンジした演奏やJefferson Folk Groupの演奏が登録されていないのが謎です。
●ジェファーソン・フォーク・グループ "Western Fingers"
ちなみに、このレコードの規格番号はリヴィエラ・レコードの231230なんですが、同じリヴィエラ・レコードの231237という番号で、ルフェーヴルの「男と女」「セリーヌの瞳」「ウエスタン・フィンガーズ」「アンジェリーク」の4曲入りの45回転17cm盤が発売されてます。もしかしたら、リヴィエラ・レコードとしてJefferson Folk Groupをもっと売り込みたい、という意思があってルフェーヴルに録音を依頼したのかもしれません。ルフェーヴルの演奏はバンジョーの代わりにギターを強調して管楽器も加えた原曲に忠実なノリの良い演奏ですが、管楽器はマイクから離れているところで演奏しているようで、またギターやヴァイオリンの明らかな演奏ミスがあったりするところからみても、余興的な一発録りである可能性がありそうです。これではキングのディレクターが日本で発売を見送ったのも無理ありません。
それにしても原曲を聴いて一番驚いたのは、ルフェーヴル盤の前奏はJefferson Folk Groupのものとは全く違い、その一方でポール・モーリアが演奏したものとそっくりだったということです。もちろん、Jefferson Folk Groupとは別のアーティストがこの曲を取り上げていて、その始まり方をふたりが採用したという可能性は捨てきれませんが。
●ポール・モーリア・グランド・オーケストラ "Western Fingers"
●レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ "Western Fingers"