もうずいぶん昔の話になりますが、Vangelis(ヴァンゲリス)のファンという海外の方からコンタクトがありました。
 「レイモン・ルフェーヴルが演奏しているヴァンゲリスの「Stephanie / ステファニー」。それが収録されている日本盤LPには『当時彼が所属していた音楽グループ、Aphrodite's Child(アフロディテス・チャイルド)の曲』と書かれているというが、聞いたことないし、そんな雰囲気の曲でもない。何か知らないか?」といった内容でした。
 それに対して「私も何も知らない。アフロディテス・チャイルドの曲というのは間違いの可能性がある。レイモン・ルフェーヴルが同じ頃に作曲した「ジョー」という映画音楽に「ステファニー」に似たフレーズが出てくる。ヴァンゲリスがオリジナル曲を提供し、ルフェーヴルは、そのオリジナルをかなりいじっているかもしれない。」という内容で返信しました。
 その後、ヴァンゲリスのファンの方のホームページを見ると、その謎が解けたようで、この曲は1970年の"Rose D'or(ローズ•ドール=金のバラ)"という音楽祭のテーマ曲として作曲した、ということが書かれていました。(実は、ルフェーヴルのフランス盤LPのジャケット裏にも書かれていた。)当時この"Rose D'or"でオーケストラの指揮をしていたのがルフェーヴルだったので、当然、音楽祭ではルフェーヴルが演奏し、気に入ったのでレコーディングもしたのでしょう。
 派手なドラムスとベース、炸裂するブラスと、それに絡みつく美しいストリングスが聴きどころですが、ファンが身震いするのが、ストリングス、ベース、ブラスそれぞれが違うメロディを奏でつつも一体感を生み出し、曲の終わりに向かって聴く人を引っ張っていく見事な構成力。そして、よく聴くと、実はエレキピアノやフルートなどいろいろな楽器がバックで鳴っていて、それが重なり合って複雑な音色を構成しているという、職人技的な音作り。ここがすごいんですよね。聴き込むほどに新しい発見がある。それがルフェーヴルのアレンジ。
 この曲をライヴで聴きたくて、ファンのみんなでリクエストしたところ、1993年に取り上げてくれました。リハーサルの場に立ち会わせてもらった当時のファン・クラブのスタッフは大感激。ライヴという演奏者数が半分近くまで削られてしまっている状況にも関わらず、ステジオ・レコーディングの音を生演奏の迫力を加えた上で見事に再現した演奏で、レーモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラの実力と、20年以上前のアレンジをほぼそのまま披露するという、ルフェーヴルの自分のアレンジに対する絶対的な自信を垣間見ることができました。
 ただ、演奏曲目が多すぎるというプロモーターの意見で泣く泣くカットされてしまい、後にも先にも、ステージ上で「ステファニー」が演奏されたのは、その1回きりでした。ちなみに、ルフェーヴルのオリジナル曲「マグダレーナの伝説」も同じようにリハーサルのみで演奏されました。(コンサートで演奏したら、作曲印税入るのに…。ルフェーヴルさんらしい…)
 もし、ジャン・ミシェルがオーケストラを率いて演奏する機会があったら、ぜひ「ステファニー」をやってほしい。そう、切に願います。

●レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ "Stephanie"

●レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ "Jo"(サントラ盤)